作者 生没年 |
谷中安規 1897(明治30)-1946(昭和21) |
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制作年 | 1933(昭和8)年 |
サイズ | 縦157o×横227o |
技法・素材 | 木版(多色) |
解説 | 谷中安規は内田百フが「風船画伯」と呼んだ版画家でした。1930年代のモダン都市・東京の姿に、密教的土俗世界や少年時代に過ごした京城(現在のソウル)の記憶などを織り交ぜて、きわめて幻想的な木版画を制作しました。《蝶を吐く人》はそんな作品の一例です。 画面に描き出されているのは、当時小石川区西丸町(現文京区千石)の三畳間の下宿に住んでいた谷中と思われる男が、蝶を吐き出し、その影が壁に大きく映し出されている様子です。さらに親子のような二匹の蝶の影が窓外へと向かって飛んでいく情景が見られます。そうした表現にうかがえるのは、「虚」である影に真実を見て取り、「実」である現実に幻を感じるといった、通常とは逆転した谷中の観念です。谷中が影絵的な版画を多数制作していることに加えて、「真実の中にさゆらげる影こそは、真実にして実体こそは影めくものにてありぬべし」(「感想」『方寸版画 幻想集』1933年)と書いていることなどは、そのような見方をうながしてくれます。窓外へと向かう二匹の蝶は、谷中の心の分身であったのかもしれません。 |
所蔵美術館 | 町田市立国際版画美術館 |